That's it.

それでおしまい.

プリーズ・セレクト・マイ・ファッション

ワタクシに現実世界で複数回お会いになった方は、こう思うはずだ。

「あいつ、いつも同じ服着てない?」

いい質問ですね。正解だ。実際4種類くらいしか服を持っていない。

それはトップスの話で、ボトムスに至っては2種類しかない。

しかも最近ボトムスのうち1つは日頃のヘビーユーズが災いして、尻に穴が空いてしまい、再起不能になった。だから今ボトムスは1本しかない。

「買えばいいじゃないの」

素晴らしいご意見だ。僕もできることならそうしたい。でもできない。

服を買いに行くのが非常に恐ろしいからだ。

まず、上記のようなアイテム数しか保持していないワタクシには「服を買いに行く服がない」。どうだ、致命的だろう。

お店に入った瞬間に、ニット帽andエスニック柄のカーディガンandひざ丈の短パンandデッキシューズみたいなオシャレ界のアッラーのような店員さんに睨まれるに違いない。

この時点でかなり敷居が高い。

この守備ライン突破できる攻撃力はワタクシには備わっていない。

通常はここで逃げ帰る。三十六計逃げるに如かず。フハハ。

しかし、気配を消して店員さんの目線をかいくぐり、幸いにも入店できることがたまにある。

圧倒的オシャレオーラに負けそうになりながらも、陳列された商品を見ている分には何の問題もない。

しかしすぐさま「あの事態」が訪れる。

「何かお探しですか?」という店員さんのアプローチだ。僕は勝手に「寄せ」と呼んでいる。

いつも思うんですけど、何故この「寄せ」は服屋に限らずあらゆる販売店において主流になっているのでしょうか。

「何かお探しですか?」

探してます。確実に。入店している以上探しているでしょう、何かしら。

「何かお探しですか?」「いや~牛丼でも食べようかと思って」みたいな返しをする奴がいるのだろうか。かなりアブナイな奴だぞそいつは。

話が逸れた。

店員さんの「寄せ」に対しては2種類の作戦が考えられる。

まず、「これこれこういうものを探しています」と申し出て、素直に店員さんの力を借りる「従順作戦」。

次に「いや、見てるだけです」と「寄せ」を退け自分で好きなもの選ぶという「自主独立作戦」。

「自主独立作戦」を選べるのはおしゃれ上級者だけだ。

というわけで僕に残された選択は「従順作戦」だけになる。

ところが、この作戦には大きな問題がある。

ニット帽andエスニック柄のカーディガンandひざ丈の短パンandデッキシューズみたいなオシャレ界のアッラーのような店員さん(以後アッラーさん)と1on1になってしまうのだ。

そのプレッシャーたるや計り知れない。

凡人からファッションセンスを引き算した凡人vs神。

どうやって対等な会話をすればいいというのか。明確なアンサーがあるなら教えてほしい。

でもアッラーさんは懇切丁寧に「今年の流行りは~」とか「お客様の体型なら~」とか言いながら実に様々な提案をしてくれる。

 神を前にしてそのご威光に仰け反っているワタクシは言われるがままに勧められたもの試着することになる。

ここで次の問題が発生する。あの「試着室」というterribleな空間の存在だ。

試着室で着るじゃないですか、持ち込んだ服を。そうすると外からアッラーが「着た感じどうですか~?」みたいなクエスチョンを投げてよこすじゃないですか。

分からない!そのセンスがあるなら最初から自分で選ぶ。試着室にしつらえられた鏡を見る限り、よくて52点だぞこれは。

百歩譲ってサイズ感は分かる。

でも果たしてそのデザイン、審美的な面がワタクシにジャストフィットしているかどうかなど、分かるわけがあるまい。逃げ場のない密室。アーメン。

返答に窮して「まあまあ」ですねという受け取り方によっては玄人感がある言葉を返して、カーテンを開ける。そこにはアッラーが立っている。

アッラーが「いいっすねー。サイズも丁度いいし。」的なポジティブ・フィードバックをくれたら諸手を上げて狂喜乱舞からの即購入win-winルートで、服を買うというアルティメット・アドヴェンチャーは幕を閉じる。めでたしめでたし。

しかし逆の場合、つまりアッラーが「あっ、いいですねー。でもちょっと他のパターンも試してみましょうかー」という、ふんわりとしたネガティブ・フィードバックがあった場合、それは地獄だ。The hell。

「僕にオシャレな服が似合うはずないのだ」「そもそもお店に入ること自体許されざる行為なのだ」と陰鬱憂鬱自己卑下ヒューマンがそこに現前する。

もはや服を選べるような精神状態ではないヒューマンは「もう少し考えてみます」というこれまた玄人感あふれる言葉でその場を濁して、逃げるように店を出るのだ。

そのような経験を幾度となく繰り返して気付いたことがある。

服を選ぶときに必要なのは地球上にただ一人でいいから「似合っている」と言ってくれる人の存在だ。

そして、それと同じくらい「それは似合っていない」とハッキリ言ってくれる人の存在だ。

ここまで書いて僕の脳裏に浮かんだ理想の服屋の店員さんはマツコ・デラックスだった。

なんとなく、似合っている場合には「まぁいいんじゃないの」とアンニュイな感じで言ってくれそうだ。

似合ってない場合には「アンタ、それは止めた方がいいわよ」とキッパリ言ってくれそうだ。

誰か、僕の服を選んでくれませんでしょうか。辛口で正直な人、お待ちしております。