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That's it.

それでおしまい.

プライベート・エレベーター

パブリック(公共)な場で思い切りプライベート(私的)に振る舞うことがもたらす快感はとても大きい。

 

その快感に囚われた愚かな男の悲劇について書く。

 

エレベーターはパブリック(公共)な面とプライベート(私的)な面が共存している不思議な乗り物だ。

 

エレベーターは基本的には不特定多数の人を運ぶパブリックな乗り物だ。

 

しかし、1人で乗った時、そこはいきなりプライベートな空間に変貌する。

 

バスや電車とは違い運転手や車掌がいない。人が乗ってくるにしても、音がなるからすぐに分かる。

 

つまり、1人でエレベーターに乗っている場合、「チーン」というエレベーターが止まる音が鳴らない限り、目的の階に至るまでの間、その空間は完全なプライベート・スペースになる。

 

そう、「チーン」という音を聞き逃さない限りにおいては。

 

学生の頃、研究室に携帯を忘れたことに気付いたので、取りに行った。23時ごろだった。

 

研究室は8階にあったので、エレベーターに乗った。

 

こんな時間に僕以外の人がいるはずがない。

 

高を括った僕は8階まで過ごすエレベーター内の時間を、完全にプライベートなものと見なした。

 

平時はパブリックな場所で、人目を気にすることなく思いきり私的に振る舞うこと。これがもたらす快感は大きい。

 

昼間は車がバンバン通る道に、夜中寝転がった時に感じる全能感。

 

普段は人でごった返している公園に夜中一人で佇むときに感じる高揚感。

 

その類である。

 

忘れ物を取りに行った時に乗ったエレベーターの中で、僕はそのようなプライベート快感に浸っていた。

 

その快感にそそのかされた僕はエレベーターの中で、敬愛するイチローがバッターボックスに入るまでの動作を完全再現することにした。

 

ネクストバッターズサークルでの股割、ゴルファーのような独特の素振り、バッターボックス手前での屈伸、地面をならす動作。

 

完璧な流れ。完全な再現。そして、締めの動作に入った。

 

イチローの代名詞、バットを掲げるあのポーズである。

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エレベーターの扉に向かって、イチローになりきっている僕は、この上なく凛々しい表情でバットを掲げた。

 

エレベーターの扉が開いた。他の研究室に所属しているであろう女性がそこに立っていた。

 

楳図かずおの漫画に出てくる女性みたいな構図で悲鳴を上げて、女性は走り去っていった。

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そりゃあそうなりますよね。エレベーターの扉が開いた時、そこイチローの物まねしてる、ドヤ顔の奴がいたら。しかも深夜に。

 

僕はこう書いた。

 

「チーン」という音を聞き逃さない限りにおいてエレベーターはプライベートな空間になる。

 

イチローモノマネwith楳図かずお事件が起こった時、僕はウォークマンでB'zの「ultra soul」を大音量で聞いていた。

 

「チーン」なんて聞こえなかったのである。

 

立ち尽くす愚かな男。その間も「ultra soul」は流れ続けた。

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「夢じゃない、あれもこれも」

 

その通り。夢じゃない。現実でした。